進化発生ゲノミクス研究グループの鈴木誠准教授は、九州大学大学院医学研究院生化学分野の松沢健司講師、池ノ内順一教授らとの共同研究により、上皮細胞が細胞接着面で互いの収縮力を感知し力学的情報を伝達する仕組みを明らかにしました。この成果は、国際科学誌の米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。
私たちのからだを構成するさまざまな臓器は、上皮細胞のシートが湾曲することで管状や袋状の構造を形成します。このような上皮細胞シートの変形は、細胞接着構造を裏打ちするアクトミオシン線維の収縮によって起こります。しかし、このアクトミオシン線維の収縮がどのように制御されているのかについては、不明な点が多く残されていました。
本研究において研究グループは、培養細胞を用いたライブセルイメージング解析および細胞生物学解析により、足場タンパク質であるHomerが上皮細胞の頂点接合部に存在し、機械的な張力を感知して局所的なカルシウムシグナルを引き起こすことで、細胞骨格(アクトミオシン線維)の収縮力を調節する役割を果たすことを発見しました。
また、アフリカツメガエル胚を用いた解析により、Homerの機能が神経管閉鎖(初期胚で脳や脊髄のもととなる管を形成する過程)に必須であり、その阻害が神経管閉鎖の失敗を引き起こすことを見出しました。神経管閉鎖は脳や脊髄の発生に必須の現象であり、その異常は二分脊椎や水頭症などの先天性疾患につながります。この結果は、Homerが細胞種を超えて発生過程においても重要な役割を果たしていることを示しています。
Homerを介した力学的情報の伝達機構は、上皮細胞が細胞極性を保ったまま局所的な力学応答を制御できる巧妙な仕組みであると考えられます。本成果は、上皮組織における細胞協調メカニズムの理解を深め、発生生物学や再生医療に新たな知見をもたらすことが期待されます。
K. Matsuzawa, M. Suzuki, Y. Cho, R. Fujinaga, & J. Ikenouchi, A steady-state pool of calcium-dependent actin is maintained by Homer and controls epithelial mechanosensation, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 122 (43) e2509784122,
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2509784122
広島大学プレスリリース記事:https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/93678